Days on the Rove

好事家風情の日常。読書と散歩と少々の酒。

企画展・イベント感想2020/12

12月は1件のみか。あと、オンライン配信でひとつ参加したのかな。

名称:小林清親 光と影 後期展
場所:川崎浮世絵ギャラリー
入場料:¥500
期間:11/21〜12/20(前期展は10/24〜11/15)
見学日:12/20(最終日)
図録:なし。展示リストのみ。

明治期の浮世絵師。浮世絵の終焉を迎えた絵師のひとり。浮世絵のスタイルを踏襲しつつも、西洋画的な手法を取り入れた光線画と呼ばれる作品で有名。
自分にとっては杉浦日向子先生が描いたYASUJI東京の主人公の師匠として背中だけ登場するというイメージが強い。
最初に小林清親の実物を見たのは、2012年の森井荷十コレクション展(練馬区美術館)の時か。懐かしいな、あの企画展。
あとは、実家にあった平凡社の百科事典のカラー口絵かな。たぶん浮世絵の項、ガス灯の絵

YASUJI東京 (ちくま文庫)

YASUJI東京 (ちくま文庫)

 

 せっかくの光線画(上品な色使いと輪郭線を用いない空間表現で、東京の発展と人々の変化を描いた)という手法を見出したのに、のちに作風が大きく後退(浮世絵風や判じ絵=ポンチ絵か)するのをみて、失意の連続だったのだろうなと想像する。
失意の連続の内容については、ウィキペディアで知ることができる。

ja.wikipedia.org

 今戸橋茶亭の月夜の光と影。浮世絵調なのにどこか叙情的。
神田八雲神社暁の陰影の丁寧な描き方。
小梅曳舟通雪景、雪の降る静かな風景。例の曳舟川
千ほんくい両国橋の大胆な構図(ただし、これは浮世絵的だ)。柔らかい色彩。曳舟…にも通じるものか
柳原夜雨、雨の降る夜。雨に濡れる人々。水浸しの広場?の光と影、波紋が美しい。

どの作品だったか、大正新版画にも通じるようなものを感じた作品があった記憶。(川口善光寺雨晴だったか。夕景に浮かぶ雲の表現だったような記憶が)
無論、吉田博のそれらとは全く違うのではあるが、なにか通じる物があるような感覚を見学時に覚えた記憶がある。

そういった絵に比べても百面相のつまらなさには驚く(単にこちらが求めている物ではないというだけなのだろうが)。ポンチ絵的といえばポンチ絵的なのだが、リアリズムの追求と一瞬を切り取ったグロテスクな表情。決してこども向けとはいえない。

光線画の光と影の美しさとそのほかの「ある意味凡庸な」絵の落差に驚かされた。
浮世絵の凋落と(西洋絵画と石版画の時代だもの)、版元から売れる絵を求められ(憶測)、政治的なアレコレに巻き込まれた失意…、そういった物が光線画を書かなくなった理由なのかもしれない。

清親に魅了された著名人たちの言葉。木下杢太郎と永井荷風(他は失念)。木下杢太郎と永井荷風…あ、都会趣味。というか古き良き江戸情緒と東京趣味か。

大正新版画がブーム(というか企画展が多く開かれるよね、最近)の今。その嚆矢ともいえる清親の絵を見ることができたのはよかった。あとは井上安治をじっくりと眺める機会があればと思う。

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