Days on the Rove

好事家風情の日常。読書と散歩と少々の酒。

企画展・イベント感想2021/02

名称:小村雪岱スタイル 江戸の粋から東京モダンへ
場所:三井記念美術館
入場料:¥1300(予約制)
期間:2021/02/06〜04/18
見学日:2021/02/07
図録:あり。購入。¥2750

昭和初期に画家というよりも装丁・挿絵・舞台美術などの分野で活躍した小村雪岱の展覧会。
昔から気になる人だったのだが、自分が入手できる情報が少なくて、なかなかその作品や人物に迫ることができなかった人である。
(そういえば、最近、芸術新潮の雪岱特集号を入手したな…)

泉鏡花の日本橋や邦枝完二のおせんの実物を見られただけでもう!言葉にならない。
おせんの縁側という作品と鈴木春信の作品・夜更けを並べて展示してある工夫。なるほど、雪岱が昭和の春信といわれるのもよくわかる展示方法だな。

肉筆画なこぼれ松葉の余白の使い方。余白の部分が大きいのが、一つのスタイルなのかな?
雀?が雨に打たれる春雨や涼味も余白の柄板に特徴。雪の朝もだな。

続いて装丁。鏡花の日本橋と邦枝完二のおせんが、双璧。
当時の書籍が目の前にあるということ。そして、装丁も含めて作品なのだと改めて思わされる。

挿絵。矢田挿雲の「忠臣蔵」。江戸から東京への挿雲だよね?小説もあるのか…。挿絵を見てストーリーのどのあたりなのか想像できるのは、この作品のみ。まだ、基礎教養の中に忠臣蔵がある世代なのね…俺。
こういう基礎知識って大切だったのだなと最近改めて思う。とはいえ自分の基礎知識は薄っぺらなので、これからも日々勉強ですな…

おせん、雪岱の絵入りで出さないですかね…。青空文庫に作品自体は収録されているが、当然雪岱の挿絵はないからねぇ。
鏡花も読んでないからなあ…

www.aozora.gr.jp

舞台装置原画。もっと簡単なスケッチかと思えば、思った以上に精緻。本人は舞台が興味の焦点になってはいけないと書いているようだが、実際に舞台装置が雪岱の原画によるものだったら…、みとれてしまうだろうなあ。

ほか、清方、春信の作品もいくつか展示。清方とは尊敬とリスペクトする仲であったのだ老なぁ。お互いに文章も書くわけで、そのあたりも比較したいのだが、なにせ雪岱の本は…

副題にちなんで工芸品も多数展示。技巧がわからぬ粗忽者なので眺めるていどに。桜桃の置物とイチゴの帯留めに目を奪われた。雀の置物は姿をよく捕らえてかわいいぞ。けんかして団子になっているものなんて!もう!

図録は購入、¥2750ナリ。図版も多く、過去の研究書籍や展覧会の言及もあり手元に置いておきたい1冊だった。
グッズはキリがなくなりそうでガマンした。でも、クリアケースぐらいは買えばよかったかなぁ…。

名称:複製芸術家 小村雪岱 ~装幀と挿絵に見る二つの精華~
場所:日比谷図書文化館(東京・日比谷)
入場料:¥300
期間:2021/01/22〜03/23
見学日:2021/02/07
図録:なし。解説パンフ?あり。

同日に二つの小村雪岱の展示を巡るという…。この二つの展示が重なったのは偶然のようだが、展示を見るなら二つをまとめてとは思っていた。雪岱まみれの一日。

こちらは装幀された書籍と挿絵が掲載された雑誌・新聞が中心。実際の新聞を蒐集…とてつもない労力だな。こういう蒐集する方がいて、我々はそれを享受できるのだ。感謝しかない。

とにかく小説がわからんのよね。土師清二鈴木彦二郎??と言った塩梅。名前に聞き覚えのある作家でも読んだことがない作品が多数…。そんな状態なので、作品と挿絵がリンクしない。ただただ、雪岱の絵に感服するのみ。勿体ないなぁ。

資生堂意匠部関連の展示が面白い。あの資生堂の書体の源流は雪岱だからね。当時の資生堂刊行の冊子を面白く眺める。香水ボトル(当時の物ではなく、復刻版とのこと)は雪岱のデザインと記してあったが、ボトルのデザインもなのか、菊の模様だけなのか。どちらなのだろう?

作品目録に若干の解説がある。あと、リーフレットにもコーナーキャプションがそのまま掲載?されている。どちらも入手必須です。

小村雪岱といえば中公文庫の「日本橋檜物町」と星川清司の書いた評伝「小村雪岱」どちらも読めてないのよ。当時どちらの入手できる環境にいたのにね。まあ、前者は古書店で見つかるだろうが、後者はお値段が!状態なのよねぇ。

小村雪岱

小村雪岱

  • 作者:星川 清司
  • 発売日: 1996/01/01
  • メディア: ハードカバー
 
日本橋檜物町

日本橋檜物町

 

というわけで雪岱まみれだった一日。
そういえば、予約時間前に三井記念美術館周辺を散歩したのだが。そのとき訪れた日本橋川の常盤橋(明治時代の石橋。東日本大震災の際に損傷。現在修復中)。
確か、以前に読んだちづかマップに常盤橋のことが載っていたよな…と改めて読み返してみたら、雪岱と日本橋。そして常盤橋のことが描かれていた。この時に常盤橋を訪れたのも呼ばれていたのかもしれないなぁ。
そしてその漫画には、雪岱の絵が奉納されている寺院を訪ねるシーンも。そこ…目の前を歩いていたのに…もったいないことを…。

ちづかマップ(1) (フラワーコミックススペシャル)
 

 

 
 
 
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名称:コレクション展「ヨコハマ・ポリフォニー:1910 年代から 60 年代の横浜と美術」
場所:横浜美術館
入場料:¥500(予約制)
期間:2020/11/24〜2021/02/28
見学日:2021/02/28
図録:なし。Web上に出展リストあり

コレクション展?えっ?企画展の「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」は?そっちには心が動かなかったのよ。
なによりも横浜と美術というテーマが気に入ったのね。だから…

福原信三の写真が良かったな。大正時代のパリの街角写真。ドアノーとかブレッソンの先取りのような写真。ゼラチンシルバープリントと表記されていたが、これ銀塩写真のことだよね?当時のレンズのレベルなのか、精細さには欠けるけれどもそれも表現の一部になっている感じか。

長谷川潔の作品。基本的に木版画でないものには全くもって興味が無い。でも、一点だけ木版画があった。「風」という作品。モチーフはイェーツの詩らしいが、基礎教養が無い自分にはわからない。が、版画としては好みだな。

関東大震災からの復興というコーナー。横浜の歴史で震災はひとつのテーマになる。なるほど、と。災害の風景を描いたものだが、作品性というよりは、弱い記録性かなと。すでに写真の時代だからな。
とはいえ、中島清之の関東大震災画巻は記録性もあると感じた。山手の丘から眺めた震災後の俯瞰風景。船からの煙がたなびいているのだが、一瞬震災後の火災の煙かと勘違いした。

そして好みの新版画コーナー。新版画の絵師たちの師匠になる鏑木清方の木版画からスタート。文芸倶楽部の口絵。
そして川瀬巴水。ただし、横浜の風景ではない。
そしてそして横浜を描いた新版画家の石渡江逸。横浜萬国橋、鶴見の観音、(神楽)子安一の宮神社の三作品。江逸を見るのはいつ以来か。平塚美術館か、横浜高島屋の川瀬巴水展か、横浜美術館のニッポンの木版画の時だったか。
やはり浜っ子故か、横浜の風景を新版画で見ると何かしらの興趣を覚える。写真とは違う新版画の情緒と過去の風景のアーカイブがおり混ざったようなことに感じ入るのかもしれない。
基本、新版画だと江戸の残り香/東京の新風景/地方の風景になってしまう。横浜に画趣があるのかどうか。(これは他の作品でも思うところ。横浜に横浜らしさの画趣はあるのだろうか、と)
チャールズ・バートレット、フリッツ・カペラリ、ポール・ジャクレーの新版画も。バートレットの作品はヨコハマが主題。根岸と磯子の沿岸風景。弧を描く海食崖の風景には、確かに画趣はありそうである。(外国人遊歩道、根岸競馬場、東伏見邦英伯爵別邸→磯子プリンスホテルとか)

新版画の次は川上澄生!
これも眼福だったなぁ。単色木版の上に手彩色の作品があることに初めて気がつくなど。
川上澄生もちゃんと追いかけなくてはと思っている人物のひとり。文章も絵も。

写真。奥村泰宏、常盤とよ子、浜口タカシの芸術性というよりは社会性を帯びた作品群に目を奪われる。特に常盤とよ子の作品に。

あとは、まあ自分の理解の範疇を超えている作品たちなのでここには記さない。コレクション展とはべつに、眞葛焼の展示があったのでうれしい。初代宮本香山の高浮彫桜二群鳩大花瓶。

今日の展示を最後に大規模改修工事のため長期休館に入る。2023年度中のリニューアルオープン予定とのこと。再オープンを楽しみに待ってますよ!

あと、これを覚書として。

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