Days on the Rove

好事家風情の日常。読書と散歩と少々の酒。

Event Review 2022/07

というわけで7月。
…6月はどこも見学できずに終わったので、先月はReviewを書くことができなかった…。

名称:彫刻刀が刻む戦後日本―2つの民衆版画運動 工場で、田んぼで、教室で みんな、かつては版画家だった
場所:町田市立国際版画美術館
入場料:¥900
期間:2022/04/23〜07/03
見学日:2022/07/02
図録:あり。完売で購入できず。無念。

知ってはいたのだが、行く気はさほどなかった展覧会だった。
急に行く気になったのは、これを見たのが理由である。

www.youtube.com

以前に購入して積読のままだった書籍の増刷された記念のトークイベント。
この子ども風土記(鎌倉のは手元にある)と学校における版画運動に関係性があると思わなかったよ。(よくよく考えれば、この北白川も鎌倉のも版画が使われているのは事実。写真ではないのよね…)

二つの民衆版画運動とは、教育版画運動と戦後版画運動。学校とアマチュア。
戦前の創作版画運動は、アマチュアというよりも芸術家の卵向けだったかな。とはいえ、創作版画運動と戦後版画運動には小野忠重の名も見受けられるので、そういう連続した流れも見ておきたい。

アマチュアに版画を広めた「戦後版画運動」は、ひょっとすると津野海太郎いうところの「小さなメディア」なのかなと。ガリ版はともかくとしても、版画もその範疇ではと。
「小さなメディアの必要」のインドネシア?の文化活動のなかに版画あったかな…。あったら面白いのだが。
このあたり、「小さなメディアの必要」を読み返さないとな。自分が読んだのは、電子書籍勃興期、本とコンピュータが刊行されていた時代か。

www.aozora.gr.jp

そのようなことをツイッターつぶやいていたら、ご教授頂いた。

この本も読まなくては…

無着成恭らのの生活綴方とこども風土記と教育版画運動に関係性があるというのが、自分の中ではちょっと驚き。展示されている作品の時期からするば、自分の子供時代にもその影響は弱いながらもあったではないかと想像できる。あの頃、もうちょっと真面目に取り組んでいれば…。さすがに共同製作の版画の記憶はないが。(謄写版でガリ切りの記憶はある。クラス文集とかガリ切りしましたね)

1960年の鎌倉市立小坂小学校でつくられた「手袋を買いに(新見南吉の!)」の版画があって、なんか親近感が。時代も場所も違うのだけどさ。

60年代から80年代後半まで制作された川崎の小学校の大判版画。1800×900なので、これがベニア版画なのか?時代性も含めて、その時代の長さに驚く。
そこそこの長い期間(80年代後半あたりまであったのではないか)で、造船所から駅前の大規模商業施設まで、その視点は時代とともに変化するのだろうな。

各地の教育版画/こども風土記の冊子群。こういう冊子体で交換されることで広がるネットワークだったのだろうな。(このあたりは生活綴方の手法によく似ている)

青森県八戸市立湊中学校養護学級生徒による『虹の上をとぶ船・総集編(2)』から《天馬と牛と鳥が夜空をかけていく》。ああ、これ!とあるジブリアニメに出てきたもの。

 
 
 
 
 
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実際には微妙に違うらしいが、ね。

これは布にプリントした物。(同じ作品群ではない。あまりの大きさに驚いたもの)

図録が完売で残念。増刷もないらしい…。終了日間際だと、そういう問題もでてくるよね…。まあ、行く気になったのが遅かった故ではあるのだが…

他、常設展示室で開催されていたミニ企画展「紙上の生物たち」も鑑賞。非常にトマソン的な吉田穂高のシリーズや、細密な小口木版画の城所祥。赤瀬川原平の作品もあって眼福であった。

自分の興味ある分野とシンクロ/リンクするのが大変に興味深かった。こういう「呼ばれる」みたいな感覚が近年非常に多く、それが自分の面白がるものになってきたと感覚がある。

名称:七月大歌舞伎 第一部 當世流小栗判官(とうりゅうおぐりはんがん)
場所:歌舞伎座
入場料:¥3500 3FB席
期間:2022/07/04〜07/29
見学日:2022/07/17
図録:筋書。¥1200(¥1300。割引券利用)。購入。写真なし。イヤホンガイド¥700購入

コロナ禍を縫ってのお誘い。行かぬわけにはいかぬ。お誘いに感謝(メインは第三部)

猿之助の小栗判官・浪七の格好良さ。鬼鹿毛との掛け合いもいい感じだったな。笑也の照手姫もシーン毎の着物の表現がね。そして巳之助のアドリブ?まがいの口上も良かったな。巳之助の代役とか猿之助兄さんに迷惑を掛けられた話がピンとこれたのも良かった。(ちょうど見にいった歌舞伎だったからね)。ちょっとだけ、志村けんの台詞回しを思いだしたよ。
まっ、猿之助の代役は、猿之助がコロナからの復帰した後だったので見られなかったのだが。

判官を乗せた車を引く照手姫をたすける旅の女房およしを演ずる寿猿は御年92!そんなお歳には見えぬ舞(道行?)でございました。お見事。

遊行上人のお弟子役の寺島眞秀(寺島しのぶの息子さん)くんも良かったね。こういう子役を見ると親戚のおじさん気分に浸れるので良き。きっと今後、大きくなった眞秀くんを見てアレコレいうのだろうなぁw

天馬に載った小栗判官と照手姫が目の前を通り過ぎていく(3階席&花道の横故)のも溜息しかでなかったよ…。ちゃんと天満の脚が動くのな!そして判官と目が合う(様な気がした)至福。

小栗判官の物語自体は自分の知る話とは違うところが多くて、戸惑ったところも多数あった。
駒乗りは屋敷ではなく、屋外では(地元の伝説)?とか、とか。
こういうときにイヤホンガイドは大切だよな、と。

 

自分の中の小栗判官は、だいたいこのイメージである。それに地元の伝説が加わる感じか。

ところで、翌日から関係者にコロナ陽性者が出て、休演になったのはどう思えば良いのか。運がよかったのか。なんともいえぬ気分、第七波、まっただ中だものなぁ。

一部終了後は、築地場外から月島(月島ァ!)へ、もんじゃとお好み焼きを食す。

名称:七月大歌舞伎 第三部 風の谷のナウシカ 上の巻 ー白き魔女の戦記ー
場所:歌舞伎座
入場料:¥16000 1F
期間:2022/07/04〜07/29
見学日:2022/07/17
図録:筋書(第一部と共通)。¥1200(¥1300。割引券利用)。購入。写真なし。イヤホンガイド¥700購入

ナウシカですよ!新作歌舞伎は初めての機会。それがナウシカとはね!

米吉のナウシカの可憐さと菊之助のクシャナの凜々しさに参るのだよ。そして彌十郎のユパ様な。実物がそこにいる!という気分に。

当日なって、丑之助が休演になったのが残念。こればっかりはしかたがない。
これは八月になってから疑似生配信でどのような演技だったのかを確認。
幼き王蟲の精を演じた丑之助とナウシカを演ずる米吉の舞。本当に美しかった…。
(当日は、米吉一人で王蟲の書き割りに向かって踊るというものだった)

物語を説明しなくてはならないので、原作をそのまま活かしたようなシーンが多かった。そのため助長的になってしまい、だれるような気もしなくはない。
けれど、これが古典になっていく世界があるのかなとも思ったよ。ただ、ストーリーの肉の付け方・骨の裁ち方に工夫が必要だろうけれど。
シーンの素晴らしい場面はけっこう多かったので、これからの演出次第と本気で思う。

後はアニメ版の音楽を利用していたけれど、音の大きさがちょっと?だった。音量が大きすぎてなかった??スピーカーからの音が、ちょっと割れていたような気がしたのだが。

まあ、どっちにしても凄い物を見たという感想しか出てこないよ。見終わった後、同行者と溜息ばかりついていたからなぁ。

当然、下の巻もあるよね?シネマ歌舞伎でこのバージョンの放映あるよね?
つーか、10月/11月に以前のナウシカ通し狂言がシネマ歌舞伎で公開されるので、それも見なくては。

www.shochiku.co.jp

www.shochiku.co.jp

昨年の八月大歌舞伎からの観劇(五回目)。すっかり嵌まってしまったなぁ。さて、次はいつになることやら。

にしても、ある程度の世代にはナウシカって共通認識の中の物語のだなと。だからこそ、古典化していけるのだろう。それは歌舞伎のなかでも同じこと(新作から古典へ)なのである。
その入口に立っていたのかもしれない、もしかしたらなのだが。

帰りはスカグリ酒場*1とヒグラシで一杯。ヒグラシは結構な混み方だったなぁ。帰宅の電車の時間もあり、一杯だけで退散。

いい一日だった。感謝である。

名称:江の島詣と浮世絵でみる弁財天信仰の歴史
場所:藤沢市藤澤浮世絵館
入場料:無料
期間:2022/07/05〜09/04
見学日:07/24
図録:なし

辨財天信仰とは何か、なんて全く理解できなかった。それは当たり前の話で、誰もが白洲正子さんみたいに語れるわけではない。
それでも江の島の信仰と観光の文化についての一端は理解できたかな。

弁財天の開帳に集う人々を描いた群衆の浮世絵。揃の傘と着物をしつらえた集団が4組描かれているもの(清元とか、そのあたりのグループだったかな。講ではないとおもう)が面白い。そしてその清元?で参加した連中でつくった参詣図。江の島の風景とそれに群れる同じ着物を着た人が描かれている。そして参加したひとの名前がすべて書き込まれたもの。遠足の集合写真っぽいなぁ、と。

他、山本松谷、山高登、川瀬巴水も一枚ずつ。関野準一郎という人の作品も気になったかな。加えて、昭和期に活躍した山岸主計という方の作品が、いくつか。新版画の彫師でもあったらしい。ほんのりと新版画風に感じたものも。

関野準一郎は今純三(今和次郎の弟)に銅版画を学んだ方らしい。青森出身というのも、そういうことなのかもしれない。

階下のギャラリーで山岸主計の展示を行っているということで、急遽そちらも行くことにする。

名称:伝えたい情景~木版画家・山岸主計と現代作家たち~
場所:藤沢市アートスペース
入場料:無料
期間:2022/06/18〜08/28(07/18まで前期)
見学日:07/24
図録:なし

新版画の彫師でもあり、創作版画画家でもあった山岸主計の展覧会。藤沢市に在住していたとのこと。
文部省嘱託で世界各国を回り、その体験を元に「世界百景」シリーズを刊行したとのこと。このあたり、吉田博にも似ているな、と。

すでに会期は後期で自作の作品が中心。彫師時代のものは前期で公開したらしい。それも見てみたかったな。(自分の趣味のなかではポール・ジャクレーのものが見たかった)

水彩画、線描の木版、多色刷りの木版と並んで展示してあるものが数点。新版画のそれとは違う雰囲気。水彩画のタッチをそのまま版画に起こしたように感じた。
とみながら考えていたら、解説にスケッチ感を活かした…みたいな記述が。なるほど、スケッチなんだ。だから新版画ほど、くっきりとした線描と色彩を使わないのだろう。

他現代作家お二人の作品が別室で展示。内田亜里さんと田中唯子さんのもの。写真を転写した様な作品と、鉄粉を使った版画?(リストで確認したら、プラチナプリントとモノタイプとでていた)
こちらは自分の理解の範疇を超えているので、ここらにとどめておく。

その脚で馬車道にまわり、県歴の地図展へ

名称:地図最前線-紙の地図からデジタルマップヘ-
場所:神奈川県立歴史博物館
入場料:¥900(特別展のみ)
期間:2022/07/16〜09/25(〜8/14:8/16〜)
見学日:07/24(前期展を鑑賞)
図録:あり。未購入。¥1500 後期展にて購入予定・

地図そのものに焦点を当てた…というよりは、地図をつくった人々や、地図の受容の歴史をまとめた企画展か。とはいえ、古地図に目を奪われるのはしかたがないわけで…

観客はいつもにまして多い様に感じたけれど、地図業界やSNSでは話題になってなくない??
それがちょっと残念。

富士ゼロックスによる複写の神奈川県鳥瞰図が最初に展示。こういう高精細の複写から享受されるものもあると感じる。これを見るだけでも価値があると思う。

後半は地図をつくった人の顕彰なので、その作品を眺める感じになる。前半のハイライトは明治最初期の大判の栗木全図(前期のみ)かな。川の流れをじっくりと確認するなど。最近見つけた暗渠の流れも気になるところで舐めるように眺めてしまった。

どうも横浜周辺の地図だと川筋を確認してしまう…。上流の流路がわからなくなる本牧元町の川とかね…(そもそも三渓園の池の水はどこに流れているのか問題も解決していないし)
これを眺めるのに利用したのが、水路図というのが何とも。その水路図にとっては無意味な陸地部分の情報が、こちらにはご馳走になるのだ。

外邦図(台湾のものだったか)も展示。これもひとつの歴史なので、あるからには展示しなくてはなるまいて。

初期の地図だと、内陸部に空白の地帯があるのが何とも。測量が終わってない地域があるということ。空白の地帯。
何かで読んだアフリカの奥地は地図が描かれていなかったので、空白だったというそれを思いだした。ナイルの上流だって、よくわかっていなかったのだから。
(蛇足なのだが、クマのパディントンででてくる地理学者というのが冒険家っぽいのは、こういう理由なのかとも思う。まあ、そういうことなのだろうな)

後半で、地図の作成に銅版からプラスチックになった展示があった(スクライバー?)。プラであるという不思議。あと、数値地図のフロッピーが展示。こういうのも歴史資料になってしまうのだなぁ。

当時利用していた経緯儀が展示してあって、ふと点の記を思いだした。あの頃、どのような計測機器を利用していたのだろう?

 

 

どちらもオススメである。

個人的には熱い展示だった。後期展示では鳥瞰図や名所案内が多く展示されるみたいなので、そちらにも行きたい。図録(¥1500)もそのときに購入しようっと。

 

*1:横須賀線グリーン車で飲む

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